伊那谷のベテラン養蜂家M氏と電話で話した。氏によると、伊那周辺での今年の分蜂は例年とはかなり違ったという。
分蜂のスタートが例年より一ヶ月遅く、分蜂活動もいつもより格段に低調だったらしい。
氏はその原因を次のように分析している。
- 2月の温かい天気で働き蜂が例年より早く活動を始め、女王蜂の産卵も始った。そのため残り少ない貯蜜をドンドン消費してしまった。
- ところが3月に入ると気温が下がり、食料補充もままならい日が続き、多くの成虫や幼虫が餓死または凍死をした。
- ということで、蜂群は分蜂への十分な体勢を整えないままに春の分蜂シーズンを向かえることになった。
M氏と似たような意見は別の場所でも聞いた。説得力のあるストーリーに興味を感じ、裏付けのためにと、M氏の蜂場に最も近い伊那地区の気温を気象庁データーで検証して見た。
2月の暖冬: *「最高気温」グラフ
- 2009年2月初めには、確かに“異常に”暖かい日が多かった。特に、2008年と比較するとその差は際立っている。
- ただ、2007年もかなり2009年に近い傾向を示している。09年だけを “異常な2月” と断定するには少々疑問も残る。
注記:
10〜20年のスパンで見ると、近年は、暖冬と寒冬が混在して起きている。単年度の気温ではなく、複数年の気温変化が蜜蜂の分蜂行動に影響する可能性も追求してみる必要がありそう。
- 3月末に氷点下を示した日が数日あったのは事実。ただ、2007年3月の方がより低温だったことをデーターは示している。 2009年が 特に寒い3月だったわけではさそう。
- グラフでは、気温の “乱高下” が2009年2〜3月の特色の一つと読み取れる。気温の高低と同時に、“気温の乱高下”がミツバチの活動に異変を来した可能性も検討してみる必要性がありそうだ。
- 3年間の2月の気温を比較した限りでは、「09年の暖かさ」より、「2008年の寒さ」の方がより“異常” に見える。
- 比較的類似した気温推移を示した2007年と2009年。2007年の分蜂が特に不作だった、との話は耳にしないのはなぜ?
活動開始気温の3カ年比較: *「2〜3月の活動開始気温」
上記に加え、ミツバチが外に飛び出して活動する最低気温より暖かった日(=活動開始気温日)を比較してみた。
注記:
“外勤蜂が働き出すのは気温10度以上”との研究レポートがある。ただ、自分自身の観察では7〜8度が活動開始の気温と思えるので、この表では「8度」を基準温度として採用した。
- 09年2月の活動開始気温の総日数は、07年、08年と比べ断然多い。そのような日が “2週間連続して起きた” ことは注目すべきファクターかも知れない。
注記:
桜の開花やキノコの発芽が、積算気温や最低気温と関連していることは実証されている。"ミツバチの産卵や、分蜂開始日が、前段階の気温変化と関係する可能性はおおいにありそうな気がする。
- 一方、”今年の3月は気温が下がりミツバチが採蜜活動できなかった”という裏付けはこのデーターからは見えてこない。
ニホンミツバチに関する飼育データーのない現状では断定はできないが、伊那谷における2月初旬の「暖冬日和」と、今年の春の「分蜂不作」との間には因果関係がありそうに見える。
注記:
グラフ、表のデーターは気象庁気象統計情報を加工したもの。