ヤマガラ芸に関する資料を探していて目に止まった一冊の本。大森貝塚で有名な学者、E・S・モースによる日本滞在中の記録だが、スケッチと文章が実に楽しい。
少々長くなるがヤマガラ(とおぼしき小鳥)の芸に関するところを抜粋引用。
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東京の一区域で浅草と呼ばれる所は、立派な寺院と、玩具店と奇妙な見世物とが櫛比する道路と、人にとまる鳩の群とで有名である。 . . .かかる見世物の一つを訪れた。. . .
我国の雀より小さくて非常に利口な、日本産の奇妙な一種の鳥を入れた籠がいくつかおいてある。. . . 小鳥達は早く出て芸当をやり度くてたまらぬらしく、籠をコツコツ啄いていた。
図628 . . . この曲芸では、一羽が馬にとび乗り、他の一羽が手綱を嘴にはさんで、卓の上をあちらこちらヒョイヒョイと曵いて廻る。 . . .
又別の芸当(図629)では、鳥が梯子を一段々々登り、上方の櫓に行ってから嘴でバケツを引き上げる。たぐり込んだ糸は脚で抑えるのである。. . .
その次の芸(図630)では、. . . 三羽は . . . 太鼓や三味線をつつき、一羽は . . . 鈴やジャラジャラいう物を振り廻す。
勿論音楽も、また拍子も、あったものではないが、. . . 鳥が一生懸命に自分の役をやるのは、面白いことであった。. .
図631では、鳥が籠から走り出し、幾段かの階段を登って鐘楼へ行き、日本風に鐘を鳴らすように、ぶら下がっている棒を引く。. . .
図632は弓を射ている鳥である。. . . 矢は射出され、的になっている扇がその支持柱から落ちる。. . .
図633では、鳥が走り出して、神社の前にある鈴を鳴らす糸を引く。鳥は . . . 銅貨を拾ってそれ等をこの箱の内へ落し入れる。
. . . 人は往来で立ち止り、祈祷をつぶやき箱の内に銭を投げ込む . . .
最も驚く可き芸当は、図634に示すものである。鳥は机の上から三本の懸物を順々に取り上げ、小さな木にある釘にそれ等をかける。釘に届くために、鳥は低い留木にとび上がらねばならぬ。. . .
別の芸当では、鳥が梯子をかけ上がって台へ行き、偉い勢いでいくつかの銭を一つずづ投げた。. . .
更に別の芸当では、傘を頭上にかざして長い梯子を走り上がり、綱渡りをした。. . .
また一定の札を拾い上げ、箱に蓋をしたりした。. . .
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「私は実に大急ぎで写生をしたが、. . . 」との記述に、見物しながら必死でスケッチもしようとしているモースの姿が目に浮かんでくる。最後の3つの芸は結局写生が間に合わなかったのか挿絵はない。
ぜひ実際のヤマガラ芸を見てみたいものと、今でもやっている所を探しているがまだ見つからない。
資料:日本その日その日 3 (E・S・モース著、石川欣一訳、平凡社東洋文庫 179 初版第9刷)、「第十九章 一八八二年の日本」所収。
写真は同書のP59〜P62の挿絵をカメラ撮影し加工したもの。写真下記載の芸の呼称は加筆した。