液体の中に浮遊するクラゲのような奇妙な物体。これがワインビネガーを造る時のスターターになる発酵菌の一種「酢母(さくぼ)」だと分かる人はそう多くはいないはずだ。
夏休みを終え帰国(来日?)した
ワイン造りの師匠YM氏が、フランスの自宅で熟成させているワインビネガーの赤白二種類の菌をはるばるノルマンディーから持って来てくれた。
日本では馴染みの薄いホームメイド・ビネガーだが、フランス、イタリア、スペインなどではかなり盛んに行われているそうで、その"種"は母から娘へ引き継がれ、あるいは親しい知人・友人間で譲ったり譲られたりするらしい。日本の“ぬか床”や、(いまではすっかり廃れてしまったが)"自家製味噌"の食文化に通じるものを感じる。
造り方に関する情報はもちろん、楽しそうな
器具類を紹介したホームページも海外には数多い。
ネットの解説では、「造り方は実に簡単。飲み残したワインにスターター(=vinegar mother)を入れ、後は熟成するのを待つだけ」とある。
とは言え、今回が初体験の自分にはそう気楽な作業という訳にはいかない。酵母という生き物を扱う作業の工程では何が起きるか分からない。遠くノルマンディーからやって来た酢母の命をここで途絶えさせるわけにはいかない。
ということで、酸化防止剤無添加、100%国産葡萄の赤白ワイン2本を買い求め、蜂蜜瓶を丹念に熱湯殺菌し、食品用無蛍光晒の蓋を準備し、酸素を好み光を嫌う酢母のために、蜜蜂巣箱用の厚板桐材で熟成期保存箱も作った。
この酢母が順調に成長してくれたら、将来は山葡萄やその他の野生果実でのビネガー造りにも挑戦してみたい。そして、自家製ビネガーに興味を持つ友人・知人達へ増やした酢母を分けてあげよう。(そんな人がもしいればの話だが。)
増産体制に入った時に使用する仕込み壺は既に手元にある。ずっと昔、出張で鹿児島県の阿久根市を訪れた折に古道具屋で買い求めた高さ60センチの壺。形と色合いに惹かれて衝動買いをしたが、鹿児島空港で預かり荷物として拒否され、周りの乗客からの怪訝そうな眼差しを受けながら座席で抱きかかえて持ち帰った古壺。
地元では「
あまん壺」と呼ばれているご当地名産「黒酢」の仕込み壺であることは後から知った。これまでは野鳥フィーダーのヒマワリ種保存容器として使用してきた。今回のワインビネガープロジェクトがうまく運べば、このあまん壺も九州から八ヶ岳に引っ越してきてから数十年経ってやっと本来の役割を受け持つことになるのだが . . . 。