オシドリ夫婦の語源が気になって調べた雑学メモ:
鴛鴦之契(えんおうのちぎり)
"おしどり夫婦"の語源は中国の捜神記(そうじんき)に記された
韓憑(かんひょう)と妻何氏(かし)の悲恋物語だった。
春秋時代、暴君康王に仕えた韓憑は、絶世の美女と謳われた妻何氏を王の側室として奪われただけでなく、無実の罪をきせられ自害に追いやられる。
夫の死を悲しんだ妻は「せめて遺骸は夫の墓に」との遺書を残して城壁から身を投げて夫の後を追う。でも、康王はこの願いも無視し、わざと遺体を韓憑の墓の向いに埋めさせた。
すると、二つの墓にそれぞれ一本ずつ木が生えてきて、やがて互いに幹を曲げて寄りそうように絡まり、樹上には悲しげに鳴く二羽のおしどりの姿があった。
梓の木
同書には、墓地に生えてきた木は「梓」と記されている。梓は、上高地を流れる梓川の名前の由来として、あるいは皇太子浩宮殿下の
お印の木として日本でもよく知られた樹
。
ただ、日本で「梓=あずさ」と呼ばれる木は、ノウゼンカズラ科のキササゲ(学名:Catalpa ovata)と、カバノキ科のミズメ(学名:Betula grossa)の二種類がある。韓憑と何氏の墓に生えてきた木はそのどちらだろうと調べ始めてみたのだが意外と簡単には判明してくれない。
(注)
相思樹
同じ悲恋物語を由来として「相思樹」という木があることも知った。であれば「相思樹=梓の木」の可能性が高い、と推測し、
相思樹傳說のキーワードで中国語サイトを検索し、漢字から推測読みしながら調べてみると、「相思樹」と呼ばれている木は中国本土だけでなく、台湾にもあるようだ。写真から判断するとアカシヤ、ヤナギ、ガジュマロ、. . . と相思樹と呼ばれている樹は千差万別で、どうも二本の木が絡まって生えている「樹形」からきた呼称のようで、樹種とは関係がなさそうだ。
台湾アカシア
その上、「相思樹」という固有名を持つ台湾アカシア(学名:Acacia confusa)という木があることも知った。ひめゆり部隊の少女たちが歌った「
相思樹の歌」の相思樹はこの台湾アカシアなのだそうだ。韓憑と何氏の墓に生えてきた樹は台湾アカシアと断定している
ネット情報も少なくない。
確かにアカシアは水辺に生え成長の早い樹。そして、おしどりは水辺の木の洞に巣を構える。であれば、韓憑と何氏の墓が水辺にあり、そこにアカシアが生え、短期間で大木に育ち、その大樹の樹上におしどりが棲みつく。悲恋物語のストーリーと辻褄が合う。
(右写真はロンドンDagnam Parkのwebサイトから拝借)
ただ、「捜神記」に書かれている“大梓木”の「梓(Catalpa ovata,またはBetula grossa)」が「アカシア(=Acacia confusa)」だと示唆する資料や情報はない。
比翼連理
「木の絡まる」姿から男女の仲睦まじさを表現する「
比翼連理」という言葉も中国にはある。
縁結びのパワースポットとして名高い京都下鴨神社の「
連理の賢木(さかき)」をはじめ、カツラ(北海道)、アベマキ(愛知)、クスノキ(福岡)、. . . など、日本版
連理木も数多くあるが、こちらも樹種はまちまちで、梓解明へのヒントにはなり難い。
. . . ということで、そもそものギモンの発端、"韓憑と何氏の梓"についてはいまだ解明の糸口さえ掴めていない。
注記:
梓川のあずさがミズメであることには異論が無さそうだが、皇太子浩宮殿下のお印の木がキササゲかミズメかという議論はあるらしい。