昨夏のスイス旅行の折、トレッキングへ出かける前に、ホテルの朝食テーブルからジャムとロールパンを頂戴するのを常としていた。それらのうち、食べないままバッグの底に残って日本に持ち帰ったジャムの賞味期限が迫ってきたので今朝の朝食で封を切った。
Heroの4種類のジャム。うち3種類は、ラズベリー、ブラックチェリー、イチゴのジャムであることは容器の写真から容易に判別できたが、黄色い果実がマルメロであることが判明するまでには、仏語辞典、独語辞典、ネット検索とかなりの時間を費やした。
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マルメロジャムを食べるのは初めてと思っていたが、諏訪名物のカリンジャムと同じものということも分かった。ボケ属のカリンと、マルメロ属のマルメロは別属別種の木。諏訪のカリンジャムは、実はマルメロジャムなのだそうだ。
そして長野県では「カリン vs マルメロ」論争があったことも知った。以下が諏訪市の公式ホームページから読み取れるその“イザコザ”の歴史。
江戸時代に栽培が始まったマルメロは、導入されたときから諏訪地方では「カリン」と呼ばれた。明治41年、栽培農家の間に「カリンかマルメロか?」の論争が起き、専門家に鑑定を依頼したところ「カリンに非ず、マルメロなり」の判定が下された。
しかし、カリン派はこれまでの名称を捨てがたく(あるいは、自分たちの誤りを認めがたく?)、その後も「カリン」の名称でマルメロ加工食品の宣伝・販売を続けた。
平成18年、「マルメロ加工品をカリンと呼ぶのはJAS法上まずい」との農林省の指摘も無視し、いまだに「かりん」の名称を変えようとはしない。
諏訪湖畔に造られた“かりん並木”も実はマルメロの木。でもその200有数本のマルメロ並木に、“正真正銘のかりんの木”を20〜30本ほど植え足して「これはかりん並木だ!」と胸を張る諏訪人。
さらには、“マルメロのカリン”は今では「市の木」に指定され、マスコットキャラクターや路線バスの名前に使われるまでに出世した。
頑固な信州人気質が伺えて面白い。そして、
諏訪市役所のホームページの「かりん(マルメロ)」とカッコ付きのマルメロ表記や、農林省の指摘を伝える長野県果樹試験場の
曖昧模糊とした通知文に、諏訪人の複雑な心中が見え隠れしていて一層楽しめる。